わたし、水野 愛純です。
由愛ちゃん、なんだか……ふと、フェノールの匂いを思い出しちゃうんだ
あっ、笑わないでね……? ううん、自分でもちょっと変だなって思うんだけど……でも、なんでだろうね。不思議だよね……
えっとね、たしか、あるお昼休みのことだったと思うの。火傷の手当てをしてもらわなきゃいけなくて、保健室に行ったんだ……
うん、ここなんだか急に、ちょっとかゆくなってきちゃって……あっ、あのっ……そんなにじっと見ないで……! もう、恥ずかしいよぉ……
……えっと、それでね。フェノールの匂いがいっぱいに広がった、真っ白なお部屋で……なんていうのかな、ひんやりしてて、ちょっと冷たくて……まるで、時間まで止まっちゃったみたいな感じがしたの。
あ、でもね、目は幸い大したことなかったんだよ。なのに、お医者さんがすっごく怖くて……「どこも悪くないのに、なんで来るんだ」みたいなことを、ぶつぶつ言われちゃって……
……だってね、あんなに勇気を出して、やっとの思いで行ったんだもん……うぅ……思い出したら、ちょっと落ち込んできちゃった……
……あっ、でもね!
そのとき、由愛ちゃんが長田先生と一緒に、保健室のお手伝いをしてたの。それで、わたしを見た由愛ちゃんが……えっと……何て言ってくれたのかは、もう忘れちゃったんだけど……
でもね、不思議なの。そのとき安心した気持ちだけは、ちゃんと覚えてるんだよ。
……そういうのって、あるんだね。
それにね、由愛ちゃんの、あの水色と白のリボンのカチューシャ……
あれが、なんだか……その……天使の羽みたいだな、って……
……あっ! ち、違うの、変な意味じゃなくて……って、わたし、何言ってるんだろうね……えへへ……
でも、本当にそう思ったんだよ。
それから、由愛ちゃんとはすっかり仲良しになって、保健室のお手伝いが必要なときは、一緒に行くようになったの。
……ふふ。だからね、わたしにとって、フェノールの匂いって、ちょっと怖かった日の思い出でもあるんだけど……由愛ちゃんに初めて出会った日の匂いでもあるんだ。
なんていうのかな……「由愛」だからなのかな……本当に、夢の中から、そっと出てきた女の子みたいで……
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